はじめに

今回は人口ボーナスを取り上げます。ある国が人口ボーナス期にあるか、それとも人口オーナス期にあるかは投資先を決定する上で重要な意味を持ちます。

なぜなら、どの国のどの資産に資金を配分するかによってリターンが大きく影響受け、投資候補となる国や資産を絞り込む際に人口動態は最も重要な項目の一つだからであり、人口ボーナス期にある国は成長力が高いからです。

アセットアロケーション

順を追って説明します。
1986年に米国でゲーリー・ブリンソンら3 名の学者が発表した著名な論文「パフォーマンスの決定要因(“Determinants of Portfolio Performance”)」によれば、パフォーマンス(リターン)の9割は資産配分(アセットアロケーション)で決まると言われています。

“Determinants of Portfolio Performance”(有料でダウンロード可能です)
https://www.jstor.org/stable/4478947?seq=1

トップダウンとボトムアップアプローチ

様々な投資対象の中から投資先を選定しポートフォリオを構築する手法には、大きく2つのアプローチがあります。一つはトップダウンアプローチ、もう一つはボトムアップアプローチです。

トップダウンアプローチとは

まずは経済や市場動向など、マクロと呼ばれるより大きな投資環境の予測を実施します。その予測を基に、どのような国や地域の資産に配分するかを決定、その資産配分の中でさらに有望な業種を絞り、その業種の中で最終的に個別銘柄を選定する方法です。
経済環境→国別配分・資産配分→業種配分→個別銘柄

ボトムアップアプローチとは

個別企業の調査・分析によって投資魅力の高い銘柄を選定し、ポートフォリオを構築する手法です。業種、資産、国別への配分比率は個別銘柄選択の結果として決まります。

トップダウンアプローチが主流

一般的に資産運用というとボトムアップアプローチを連想される方が多いと思いますが、公的年金資金を始めとした大規模な資金を運用する場合はトップダウンアプローチが主流です。

ボトムアップの対象に有望な投資先が含まれていれば良いのですが、ダメな投資候補の集まりの中で時間を割いて調査・分析を実施しても、相対的にマシな投資先が選ばれるだけですよね。一方でトップダウンアプローチの結果、有望な環境の中にいる投資先であればどれを選んでも大きなハズレはないはずです。

こんな理由で大規模な資金を運用する機関投資家は資産配分を重視しています。

人口ボーナス

それでは、投資先を選定するに当たってなぜ人口ボーナスが重要かを説明します。それは経済規模を測る指標のGDP(国内総生産)は、個人消費が大きなウェイトを占めるからです。米国ではGDPの約7割、日本および中国では約6割が個人消費となっています。新興国では政府によるインフラ投資がメインになる時期がありますが、いずれ経済を動かすのは個人消費に移ります。そして個人消費がどうなるかは、人口が増加傾向にあるのか、その構成比はどうなっているかで変わってきます。
そもそも人口ボーナスとはどういう意味なのでしょうか。聞いたことはあってもいまいち意味が朧げだという方に分かりやすく説明します。

人口ボーナスとは

人口ボーナスとは簡単に言うと、「人口に占める働き手の割合が増加している状態」です。
このような状態だとその国の経済は活発だとイメージ出来ますよね。
反対に「働く人よりも支えられる人が多くなる状態」を人口オーナスと言います。

ちなみに人口ボーナスの厳密な定義は次の3つです。
①生産年齢人口が継続して増え、従属人口比率の低下が続期間
②従属人口比率が低下し、かつ生産年齢人口が従属人口の2倍以上いる期間
③生産年齢人口が従属人口の2倍以上いる期間。
生産年齢人口、従属人口の定義は国によって違いますが、日本では15歳以上65歳未満を生産年齢、若年人口(15 歳未満)と老齢人口(65 歳以上)の合計を従属人口としています。

ここまでで、投資先選定にはどの国のどの資産に投資をするかから決定するトップダウンアプローチという手法があり
年金基金等の機関投資家がトップダウンアプローチを採用していること
実証研究によるとリターンの9割はどの国のどの資産に投資するかで決まること
トップダウンアプローチでは個人消費に影響を与える人口動態、もっというと人口ボーナス期にあるかどうかが重要な観点であることを説明してきました。

それでは各国の人口動態、人口ボーナスはどうなっているのでしょうか。国連による定義②を終了する、または終了が予想されている時期と、老年化指数で見てみましょう。
人口ボーナス定義②:従属人口比率が低下し、かつ生産年齢人口が従属人口の2倍以上いる期間
The 2019 Revision of World Population Prospects
https://population.un.org/wpp2019/

老年化指数 = (65歳以上人口)/(15歳未満人口)×100

主要国の人口ボーナス終了年、老年化指数(2015年、2050年)
日本 1992年 老年化指数2.1→2.9
米国 2008年 老年化指数0.8→1.2 
フランス 1989年 老年化指数 1.0→1.5
英国 2007年 老年化指数1.0→1.5
ドイツ 1986年 老年化指数1.7→2.6
ロシア 2009年 老年化指数0.8→1.2
中国 2010年 老年化指数0.5→1.6
韓国 2020年 老年化指数0.5→1.1
シンガポール 2012年 老年化指数0.7→2.5
タイ 2014年 老年化指数0.6→2.4
ベトナム 2016年 老年化指数0.3→1.6
インドネシア 2026年 老年化指数0.2→0.8
マレーシア 2040年 老年化指数0.2→1.0
ミャンマー 2029年 老年化指数0.2→0.9
フィリピン 2050年 老年化指数0.1→0.4
バングラデシュ 2032年 老年化指数0.2→0.9
インド 2040年 老年化指数0.2→0.6
パキスタン 2047年 老年化指数0.1→0.5
トルコ 2022年 老年化指数0.3→1.3
イラン 2031年 老年化指数0.2→1.3
サウジアラビア 2034年 老年化指数0.1→1.2
メキシコ 2027年 老年化指数0.2→1.2
ブラジル 2022年 老年化指数0.3→1.5
エジプト 2041年 老年化指数0.2→0.6
南アフリカ共和国 2044年 老年化指数0.2→0.5

いかがでしょうか。世界経済の主要な位置を占める先進国は将来は、米国を除き明るくないこと。成長力が高いとされる新興国でも人口動態は様々なため、選別が必要であることが見て取れます。

日本は1992年に人口ボーナスを終了。これは不動産バブル絶頂期によって日経平均が史上最高値を記録した1989年(平成元年)12月29日とあまり乖離していません。ちなみにその日の取引時間中の最高値は3万8957円44銭、終値は3万8915円87銭でした。バブル崩壊後の高値は2018年10月2日の2万4448円08銭、終値ベースで2万4270円62銭(2020年3月10日現在)で、史上最高値には遠くおよびません。また、老年化指数は2015年で既に2.1(ざっくり中学生以下の若者に対して2倍以上の高齢者がいる)と世界でも有数の高さとなっており、2050年には2.9まで上昇する予想になっています。

筆者がリスク・リターンの観点で最も有望だと考えている米国は、2008年に人口ボーナスを終了したものの、老年化指数は2015年の0.8から2050年でも1.2の上昇に留まっています。G8の中では突出した安定性があり、活力のある経済が維持できそうです。また今後しばらく人口ボーナスが維持できる国には米国企業が多く進出しています。

投資先選定の観点は人口ボーナスや老年化指数だけが全てではありません。政情、宗教、地政学リスク、そして金融システムの整備等も重要な要素です。しかし人口動態が経済に大きな影響を与えることは事実であり、一つの観点として紹介しました。