ヘッジファンドとはどのようなものなのか?

ヘッジファンドという言葉を耳にしたことがある方も多いと思います。

ヘッジには、生け垣、垣根、障壁、防止策などの意味があります。ヘッジファンドとは運用資産になんらかのヘッジ(防止策)を講じることにより保有資産の価格変動リスクを軽減し、どのような市場環境でも絶対収益(プラスのリターン)を目指すファンドを指します。

伝統的な運用は株式や債券などの買い持ちのみ(ロングオンリー)です。そのためリーマンショックのように市場が大幅な下落に見舞われた際には、どんなに良い銘柄をポートフォリオ(運用資産の組み合わせ)に組み入れたとしても市場全体が下落する影響は避けられず、収益がマイナスになることが多いです。一方でヘッジファンドはヘッジしているため、ロングオンリーと比較してマイナス幅が限定的であったり、プラスのリターンを残すことが期待できます。

ヘッジファンドの種類

ヘッジファンドは大きく2種類に分けられます。市場の上げ下げといった方向性にかけるディレクショナル型と、市場の方向性は考慮せず個別銘柄の割安度やイベントにかける非ディレクショナル型です。さらには複数の戦略を組み合わせたマルチ・ストラテジーもあります。

ヘッジファンド調査会社のユーリカヘッジは以下のようにヘッジファンドの戦略を分類しています。
1.株式ロング・ショート
2.マルチ・ストラテジー
3.イベント・ドリブン
4.マネージドフューチャーズ
5.マクロ
6.債券アービトラージ
7.アービトラージ
8.リラティブバリュー
9.破綻債券(ディストレスト)
10.その他

ディレクショナル型、非ディレクショナル型に分けると

ディレクショナル型
株式ロング・ショート
マクロ
マネージド・フューチャーズ

非ディレクショナル型
イベント・ドリブン
アービトラージ
債券アービトラージ
リラティブバリュー
破綻債券(ディストレスト)

それではヘッジファンドの各戦略の詳細を見ていきましょう。

ロング・ショート型ファンドだと次のように行うのが一般的といえます

1.株式ロング・ショート

ヘッジファンドの中で最も一般的な戦略で、ユーリカヘッジが調査しているヘッジファンドのうち35.8%がこの戦略を採用しています(2018年4月現在)。ロングとは買い、ショートとは空売りのことを指し、空売りとは実際に保有していない株を、ヘッジファンド向けサービスを提供する証券会社から賃借料を払って借りて(※)きて売ることを言います。
(※)なぜ保有していない株を借りることができるか
ロングオンリーには、アクティブファンドとインデックスファンドがあり、日経平均やTOPIXなどの指数に連動することを目的とした商品をインデックスファンドと呼びます。インデックスファンドはお客様からお預かりした資金の出金がない限り、頻繁には売却しません。言い換えると何もしないで保有し続ける株式が数多くあります。資金効率の観点から少しでも運用益を上乗せするために、保有する株式を賃借料収入が期待できる貸株に登録します。ヘッジファンドはインデックスファンドが登録した貸株に賃借料を支払い借りてきて空売りします。

ロング・ショートファンドは、ある指標や材料に基づいて割安だと判断した株をロング、同じく割高だと判断した株をショートし、片方あるいは双方の株価が修正された時点でポジションを解消して利益を得る手法です。株価の修正とは、割安銘柄の上昇、割高銘柄の下落を指し、絶対的な上昇・下落だけでなく、日経平均やTOPIXなどの指数対比での相対的な上昇・下落も含みます。

例えば自動車メーカーのなかで米ドル相場による業績変動を順位づけして、米ドル高円安になると予想した場合は感応度の高い銘柄をロング、低い銘柄をショートする戦略を採ります。このように同じ業種内でロング・ショートのペアを作る場合と、業種をまたいでペアを作る場合もあります。例を挙げると、原油高になりそうだと予想した場合、原油高により業績が改善すると期待される鉱業や商社株をロングし、燃料高で業績にダメージを受ける電力・ガスや陸運業種等をショートする戦略を採ることがあります。

ロング・ショートファンドには、ロング(買い持ち)もショート(売り持ち)も全て個別銘柄でポートフォリを構築するもの、ロングは個別銘柄で構築し、ショートは先物で代用するもの、個別銘柄のロングとショートの金額は同一にして、ディレクション(ポートフォリオの方向性)を先物でとるもの等様々なスタイルがあります。

ディレクションは株式市場全体の上昇を見込む局面では買い持ちの金額を多く(ロングバイアス)し、下落を見込む局面では売り持ちの金額を多く(ショートバイアス)しますが、一般的にはロングバイアスになっていることがほとんどです。

これは、ロングで損失、すなわち買った株が下落することによる損失よりも、ショートで損失、すなわち空売りした株が上昇することによる損失の方が、人間の心理的なダメージが大きいことに因ります。ショートバイアスには相当な胆力、特別な能力が必要とされ、常にショートバイアスにするファンドを、独立した一つの戦略として分類する場合もあります。

ロング・ショート戦略の収益パターン
・ロングバイアス(買い持ちが多い)の場合
①ロングの上昇率>ショートの上昇率
ロングの収益がショートの損失を上回る
②ロング上昇、ショート下落
ロング、ショート双方から収益が得られる
③ロングの上昇率<ショートの上昇率、かつロングバイアスが大きい場合
ロングの総額20億円、ショートの総額10億円からなるポートフォリオで、ロングの上昇率10%、ショートの上昇率15%だったとすると
ロングの収益2億円、ショートの損失1.5億円となり、差引5,000万円の収益となる。
この場合は銘柄選択では失敗したが、方向性が合っていたことで収益が得られました。
④ロングの下落率<ショートの下落率、かつロングバイアスが小さい場合
ロングの総額20億円、ショートの総額15億円からなるポートフォリオで、ロングの下落率5%、ショートの下落率10%だったとすると
ロングの損失1億円、ショートの収益1.5億円となり、差引5,000万円の収益となる。
この場合は方向性を見誤ったが、銘柄選択が寄与して収益が得られました。
・ショートバイアス(売り持ちが多い)の場合
⑤ロングの下落率<ショートの下落率
ショートの収益がロングの損失を上回る
⑥ロング上昇、ショート下落
ロング、ショート双方から収益が得られる
⑦ロングの下落率>ショートの下落率、かつショートバイアスが大きい場合
ロングの総額10億円、ショートの総額20億円からなるポートフォリオで、ロングの下落率15%、ショートの上昇率10%だったとすると
ロングの損失1.5億円、ショートの収益2億円となり、差引0.5億円の収益となる。
この場合は銘柄選択では失敗したが、方向性が合っていたことで収益が得られました。
⑧ロングの上昇率>ショートの上昇率、かつショートバイアスが小さい場合
ロングの総額15億円、ショートの総額20億円からなるポートフォリオで、ロングの上昇率15%、ショートの下落率10%だったとすると、
ロングの収益2.25億円、ショートの損失2億円となり、差引2,500万円の収益となる。
この場合は方向性を見誤ったものの、銘柄選択が寄与して収益が得られました。

ロングショート型ファンド以外の取引手法としては次のようなものがあります

2.マルチ・ストラテジー

マルチ・ストラテジーは株式ロング・ショート戦略やイベント・ドリブン戦略などの複数のヘッジファンド運用を一つのファンド内で組み合わせたものです。

3.イベント・ドリブン

個別企業の重要な「イベント」を投資機会とする手法。企業のM&Aに絡む取引をすることが多く、具体的には買収企業が被買収企業に提示した買収価格と被買収企業の市場での株価とのかい離を収益機会とする「M&Aアービトラージ戦略」が一般的です。積極的に買収価格を引き上げるような提案も行います。その他、事業売却や人員整理などのリストラや、資本政策(第三者割当増資、公募増資、減資)、組織の再編などに着目する「スペシャル・シチュエーション戦略」、破産状態で市場で割安に放置されている企業等に投資することで収益獲得を目指す「ディストレスト戦略」などがあります(ユーリカヘッジではディストレストを一つのカテゴリーとして独立させています)。また、業績の上方修正、下方修正、増配、減配などの決算発表に関わる株価の動きもイベントの一つとして戦略に加えることもあります。

4.マネージドフューチャーズ

CTA(Commodity Trading Advisor)とも呼ばれ、先物運用の専門業者を指します。CTAは、原油や貴金属、穀物などのコモディティ(商品先物)を主な投資先とし、株式や債券、通貨、短期金利等の金融先物なども手掛けます。多くのファンドは高度な金融工学や統計学などによって定量モデルを構築し、コンピューターによるアルゴリズム取引(人の裁量が入らないシステム売買)を活用して運用しています。通常CTAはトレンドフォロー(※)の手法を採用し、世界中のあらゆる商品の中からトレンドが形成された資産を見つけ出して投資します。先物の特性を活かして大幅なレバレッジ(テコの原理)をかけることが多く、ヘッジファンドの中でもハイリスクになる傾向があります。日本の株式市場でも先物主導で相場が大きく動いたと説明されることがあり、このような時は、海外のCTAによる取引が影響を与えていることがよくあります。

トレンドフォロー(※)
順張りのこと。トレンドとは傾向を意味し、上昇傾向にあるものは更に上昇する可能性が高く、下落傾向にあるものはさらに下落する可能性が高いとする考え方。

5.マクロ

ヘッジファンドというと最初に思いつくのが(グローバル)マクロ戦略ではないでしょうか。著名投資家ジョージ・ソロス氏が率いたクオンタムファンドが、1992年に英国ポンドが割高だと判断して売り浴びせ、ポンドを買い支えていた英国の中央銀行であるイングランド銀行との戦いに勝利し巨額の収益を挙げたことが有名です。この件でヘッジファンドの知名度が一気に上がったと言えます。マクロ系ヘッジファンドには特に決まった手法があるわけではなく、世界中のあらゆる国や地域の経済状況や政治見通しなどを俯瞰し、マクロ経済指数、金利、為替などの状況変化を狙って、収益機会を見出します。

6.アービトラージ

アービトラージとは裁定取引を意味し、本来であれば同じ価格になる商品間で価格差が生じた際に、その価格差が修正されることを収益機会として投資をする手法です。具体的には日経平均と日経平均先物、複数の市場に上場する国際企業の株式、そして最近では、ビットコインに代表される仮想通貨の取引所間での価格差などです。安く値付けされている市場で買って、高く値付けされている市場で売れば、売値と買値の差が収益となります。アービトラージ戦略もマネージドフューチャーズ戦略と同様アルゴリズム(システム)取引が主流となっています。

7.債券アービトラージ

アービトラージ戦略の中でも債券や金利先物に特化したものを債券アービトラージ戦略と呼びます。これは債券市場が株式を始めとしたその他の金融市場や商品市場と比較して巨大であることに因ります。

8.リラティブバリュー

リラティブバリューも2つの資産の価格差に注目して収益を挙げる戦略です。例えば長期間に渡って強い相関関係にある2社の株式について、一時的に両社の価格に通常以上の乖離が生じた場合、相対的に上昇している株式を売り、相対的に下落している株式を買います。2社の株価が通常レベルに収束した際に反対売買で決済して収益を確定させます。
ロング・ショート戦略のなかでロングとショートの金額を同程度に組み合わせることで、市場全体の価格変動に左右されない安定的な収益の確保を目指すものをマーケット・ニュートラルと呼び、リラティブバリュー戦略に含めることもあります。マーケット・ニュートラルには、同業種・同規模内でロングとショートのペアを組むよう厳格に規定しているものから、ロングとショートの金額さえ同程度になっていれば良いとする緩いものまで様々あります。

9.破綻債券(ディストレスト)

ディストレストとは苦しんでいる、困窮したという意味です。この戦略は破綻した、あるいは破綻懸念があり著しく信用リスクが拡大した企業の株式、経営権、社債、及び国の債券を極めて安値で買い、その後の財務体質、市場心理、経営状況の改善で価格が回復したときに収益を得るものです。ディストレスト戦略のヘッジファンドの中には、2009年から2010年にかけて深刻化した欧州債務危機時に、債務問題の中心となり暴落していたポルトガル(P)、アイルランド(I)、イタリア(I)、ギリシャ(G)、スペイン(S)の「PIIGS諸国」の国債を大量に買い集め、その後の財政改善プログラムによって価格が上昇したことで巨額の利益を得たファンドがあります。最近では粉飾決算で株価が急落し、一時管理ポストに入った東芝株への投資もディストレストと言えます。

ヘッジファンドへの投資のハードルが下がってきています

従来ヘッジファンドへの投資は大変ハードルが高く、最低100万ドル(約1.1億円)からとするファンドが大勢を占めていました。しかし最近は10万ドル(約1,100万円)から受け付けるファンドも出現し、さらには公募投信として証券会社経由で投資可能な商品も発売されています。ヘッジファンドは一般的に公には詳細な情報開示が成されていないものがほとんどなので、特定のパイプを持つアドバイザーからの助言の上で投資することをお勧めします。

 

【この記事の執筆者】

資産形成を日本の文化にすべく活動しているファイナンシャルプランナー。銀行、証券(投信投資顧問、ヘッジファンドのファンドマネージャー)、保険の金融3業態すべてに在籍した経験を持ち、資産形成についてのそれぞれのメリット・デメリットを把握している。