開業医も資産形成をする時代になりました

家計の状況をチェックする

開業医の皆さんが資産形成、資産運用をする上で、まず確認すべきは家計の状況です。収入が高いだけにコストに対する優先順位が低く、大きな見直し余地が潜んでいることが散見されます。続いてポイントとなるのは目的です。セカンドライフ資金、後継者育成のための教育資金、就業不能時の資金等、一般的な職業の方々と比べて多額の資金が必要になるケースが多く、目的に応じて不動産も含めた様々な商品を組み合わせることが重要です。また、法人成りの有無が分岐点になってきます。法人化していれば、高所得の個人と比較して優遇されている医療法人の税率を利用した資産形成・資産運用が活用できます。商品によっては投資した資金を損金に繰り入れながら効率的に運用することも可能です。ただし、医療法人という公共性を鑑み、税法上や医療法上の規制を充分考慮することが求められます。一方で個人事業主の場合は特に制限はないので、ローリスク・ローリターンからハイリスク・ハイリターンまで様々な商品を目的に合うようによく吟味して投資していけば良いでしょう。

家計の見直し

次に挙げる項目で大きな見直し余地が潜んでいます。

・住宅ローン

・開業、運転資金のための事業ローン

・事業保障のための生命保険

・就業不能時の所得補償保険

・顧問税理士費用等

見直しにより改善が図れれば、より多くの資金を資産形成に回すことが可能になります。

医療法人の資産形成・資産運用のポイント

・税率の低い医療法人の活用

・リスクのある資産運用は禁止(ただし保険を通してなら可能?)

・配当類似行為の確認

医療法人で可能な資産運用

医療法人で可能な資産運用の範囲は明確ではありません。そのため積極的な運用を望んでいたとしても、どこまでのレベルまでなら可能なのかお悩みの医業経営者が多くいらっしゃいます。

一般的には医療法人はリスクの高い投資はできない、安定した国公債なら問題ない、などと思われているようです。その根拠は、平成2年3月1日に当時の厚生省健康政策局長から各都道府県知事宛に出された「病院又は老人保健施設等を開設する医療法人の運営管理指導要綱の制定について」(最終改正 医政発0330第33号)にあります。

(抜粋)

項目 運営管理指導要領 備考
Ⅲ管理用
2資産管理
5医療事業の経営上必要な運営財産は、適正に管理
され、処分がみだりに行われないこと
6そのため、現金は、銀行、信託会社に預け入れ若しく
は信託し、又は国公債若しくは確実な有価証券に換え保
管するものとすること(売買利益の獲得を目的とした株
式保有は適当でないこと)。
6:モデル定款・寄付行為

医療法人で株式投資や外貨建ての資産に投資をしていると、都道府県から指導を受けると耳にしたことがあると思います。実際にその通りです。しかし医療法人の資産運用は、法的に規制されているわけではないのです。医療法人には上述のモデル定款、指導要綱に従い行政指導が入ります。

定款に書かれている文言から、医療法人の投資可能商品を分析していくと

①日本郵政公社

②確実な銀行

③(確実な)信託会社

④国公債

⑤確実な有価証券

まず①-③から預貯金、貸付信託・金銭信託は当然に投資可能だということが読み取れます。

④の国公債についての詳細を確認していきます。「国内の」と書かれてはいないので、国内に限定されてはいないと理解できます。すなわち外貨建ての国公債に投資したとしても定款違反にはなりません。それではどこの国の国公債でも投資可能かというと、そういうわけではないでしょう。利回りが高いからといって新興国の発行する国債は、デフォルト(債務不履行)リスクや為替変動リスクが高いため避けたほうが良いでしょう。明確な基準は存在しませんが、主要格付け会社Moody’s(ムーディーズ)、S&P、Fitch(フィッチ)で、信用力が高いとされるシングルA格以上であれば問題ないと思われます。参考までに2018年8月末時点の日本国債は、Moody’sでA1(A+に相当)、S&PでA+、FitchでAです。日本の格付けを上回る国が発行する国債は、日本国債より安全だとみなされていると言え、外貨建てであっても投資するに値する合理的な理由があります。また、医療機器・医療器具メーカーは海外に本社を置く企業も多く、円だけで資産を保有していると円安になった場合に最新の医療機器・医療器具を購入するのが困難になるリスクを抱えています。

⑤確実な有価証券は、何を持って「確実」とするかはかなり判断が難しいです。括弧書きで、売買利益の獲得を目的とした株式保有は適当ではないと記載されているので、特別な場合を除き株式投資は指導対象となるでしょう。それでは確実な有価証券とは何か。国公債に準じる信用力の高い、概ねシングルA格以上の社債は確実な投資対象と言って差し支えないでしょう。また、それらに投資する投資信託、生命保険商品も選択肢となり得ます。とくに生命保険商品の一部は、損金効果が得られるため有力な投資対象です。

※ただし医療法人による生命保険商品への投資は注意が必要なので別途説明します。

保険契約にも注意点があります

  • 医療法人の保険契約の注意点

医療法人は公益性の観点から税制上の優遇措置が用意されています。一方で同じく公益性の観点から非営利法人としての厳しい制限が設けられています。その一つが医療法54条の配当禁止規定です。

医療法 第54条
医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。

 

医療法人においては株式会社で実施される「株式配当」を始めとした利益処分が認められていません。地域医療の担い手として、住民に対し医療を継続して安定的に提供していくために、剰余金の使途は医療の向上に還元するよう求められています。収益が生じた場合には、施設の整備、法人職員の待遇改善等に充てるほかは積立金として留保しなければなりません。さらには、配当ではないが、事実上利益の分配とみられる配当に「類似する行為」についても明確に禁止されています。

<厚生労働省ホームページより抜粋>
配当類似行為の例
・近隣の土地建物の賃借料と比較して、著しく高額な賃借料の設定
・病院等の収入等に応じた定率賃借料の設定
・病院等の本来業務や附帯業務以外の不動産賃貸業
・役員への不当な利益の供与
・個人又は他の法人への寄附等

生命保険の名義変更だけでは危ないかも

医療法人の経営者の皆さんでも多く取り組まれている生命保険の名義変更プランが、この医療法第54条に抵触することを説明していきます。

生命保険を用いた生命保険の契約者の権利の一つに契約者(名義)変更があります。文字通り保険契約の権利を第三者に変更する行為で、医療法人で契約した保険契約を個人(理事等)に名義変更をすることが可能です。問題はその際の対価をいくらにするべきかになります。結論は解約返戻金(保険契約を解約した際に契約者に対して払い戻されるお金のこと)で評価します。その根拠となるのが所得税基本通達36-37です。

所得税基本通達36-37(国税庁HPより)
〔給与等とされる経済的利益の評価〕
(保険契約等に関する権利の評価)使用者が役員又は使用人に
対して支給する生命保険契約若しくは損害保険契約又はこれら
に類する共済契約に関する権利については、その支給時におい
て当該契約を解除したとした場合に支払われることとなる解約
返戻金の額(解約返戻金のほかに支払われることとなる前納保険
料の金額、剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額と
の合計額)により評価する。

分かりづらいので登場人物を言い換え、括弧を省略すると次のようになります。

医療法人が理事等に対して支給する保険契約の権利については、その支給時の解約返戻金の額で評価する。

なぜ法人から個人に名義変更をするのでしょうか。当然ながら様々なメリットがあるからです。代表的なものでは、①法人負担の保険料は損金計上が可能な場合がある、②給付金・解約返戻金の税負担が個人は有利、③法人から個人への資産移転、があります。一つずつ確認していきましょう。

①法人負担の保険料は損金計上が可能な場合がある

法人で負担する保険料は、保険種類、契約形態、および保険期間によって、全額損金、1/2損金、1/3損金、1/4損金、全額資産計上等が決められています。個人で契約した場合は、どんなに多額の保険料を負担しても、所得控除になるのは生命保険料控除の枠内のみです。所得税で7万円、住民税で3万5千円の所得控除(税額控除ではありません)が最大です。一方で法人契約で全額損金の保険に契約すれば、支払った保険料の全額が文字通り損金計上可能です。また一旦法人で契約し、その後に個人へ名義変更したとしても、法人契約期間中に法人が負担した保険料の損金処理が覆ることはありません。

②給付金・解約返戻金の税負担が個人は有利

所得税法施行令第30条には、「損害保険契約に基づく保険金及び生命保険契約に基づく給付金で、身体の傷害に基因して支払を受けるもの並びに心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金」(一部要約)は非課税になることが明記されています。したがって個人契約で医療保険などから給付金を受け取った場合は非課税です。ただし平成30年1月1日以降に名義変更した保険契約について保険金・給付金が支払われる場合、支払調書に保険料負担者が明記されることになったので注意が必要です。一方で法人が給付金を受け取った場合は全額益金となります。

保険契約を解約して解約返戻金を受け取る場合、法人で受け取る際は解約返戻金と資産計上額の差額が益金となり課税対象となります。個人受け取りの際は一時所得となります。これは大きなメリットです。

・一時所得の計算式(国税庁HPより)
総収入金額-収入を得るために支出した金額(注)-特別控除額(最高50万円)=一時所得の金額
(注)その収入を生じた行為をするため、又は、その収入を生
じた原因の発生に伴い、直接要した金額に限ります。
・税額の計算方法
一時所得は、その所得金額の1/2に相当する金額を給与所得などの他の所得の金額と合計し
て総所得金額を求めた後、納める税額を計算します。

課税されるのは一時所得金額の1/2のため、法人で税負担するより低い場合が多くなります。

③法人から個人への資産移転

①、②より保険料負担は個人より法人が有利であるため、逓増定期保険などの一定期間解約返戻金が極めて低位に抑制されているタイプを活用し、解約返戻率が低位にある期間は法人で保険料を負担します。解約返戻率が大幅に上昇する直前で法人から個人へ名義変更、その後個人で保険料を支払います。解約返戻率が立ち上がった時点で解約すれば、個人は少ない元手で多額の解約返戻金を受取る事が可能となり、法人から個人へ資産移転が完了します。

名義変更で代表的な逓増定期保険を用いたプランの数値例を確認してみましょう。

年間保険料1,000万円の数値例(実際の数値と完全に一致はしません)

経過年数 保険料累計 解約返戻金 解約返戻率
1 1000万円 0 0%
2 2000万円 100万円 5%
3 3000万円 300万円 10%
4 4000万円 600万円 15%
5 5000万円 4750万円 95%

このような低解約返戻金特則付逓増定期保険に法人で契約します。解約返戻率が低位にある4年間は法人で保険料を負担(累計4,000万円)し、5年目の保険料を支払う前に個人へ名義を変更(法人へ対価600万円支払い)、5年目は個人で保険料(1,000万円)を負担します。

5年経過後に解約した場合、個人側のキャッシュフローは、解約返戻金受取額が4,750万円です。この収入を得るために支出した金額は、名義変更時の買い取り資金である600万円と、5年目の保険料の1,000万円の合計1,600万円になります。

このケースでは個人の増加分は4750万円−1,600万円=3,150万円です。前出の計算式により、ここから特別控除50万円を差引いた3,100万円が一時所得となり、さらに1/2を掛けた1,550万円が課税所得となります。役員報酬で3,150万円を受け取った場合の所得税・住民税の税率は、仮に他に所得がなかったとしても50%(平成30年8月末現在)ですから、逓増定期保険の名義変更プランによる資産移転が、いかに効率的かがご理解いただけると思います。開業医の皆さんは、後継者育成のために多額の教育資金が必要になるため非常に魅力的なプランに映ると思います。

医療法人の名義変更作戦はやはり好ましくない

・医療法人における問題点

しかし医療法人の名義変更プランは「医療法人の非営利性」を定めた医療法54条に実質的に抵触すると考えられます。

医療法 第54条(再掲)

医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。

厚生労働省のHPにも名義変更は明確に禁止されている

なお、名義変更プランによって得た保険契約は剰余金の配当ではないので問題ないと思われる方もおられるかも知れませんが、厚生労働省ホームページには医療法人の剰余金の配当に類似する行為として明確に禁止されています。

(再掲)

<厚生労働省ホームページより抜粋>
配当類似行為の例
・近隣の土地建物の賃借料と比較して、著しく高額な賃借料の設定
・病院等の収入等に応じた定率賃借料の設定
・病院等の本来業務や附帯業務以外の不動産賃貸業
・役員への不当な利益の供与
・個人又は他の法人への寄附等

名義変更プランは例の中の「役員等への不当な利益の供与」とみなされて医療法第54条に違反することになります。また取引額等によっては、平成29年4月2日以後に開始する会計年度に係る事業報告等提出書を提出する際に、新たに「関係事業者との取引の状況に関する報告書」の提出が必要となっており、こちらに該当する可能性もあります。

医療法に詳しくない保険募集人が、一般法人と同じ感覚で逓増定期の名義変更プランを医療法人に提案し、契約されているケースが散見されます。医療法人の名義変更プランについては、税務上のリスクだけでなく医療法上のリスクも認識された上で取り組むことが重要です。既にお取り組み中の医療法人の皆さんで、今後の対応に苦慮されている方はお気軽にお問い合わせください。

どのような方法で資産を作るのが良いのか

以上より医療法人で生命保険を活用した資産形成、資産運用は、非常に高い効果が見込めるものの、その活用には充分注意が必要であることをお示ししました。

イ:株式投資の有効性

自己資金で資産形成されるのであれば、基本的にどんな運用商品で投資をしても構いません。本業が多忙で資産形成に対して充分な時間がとれないドクターには、値動きの激しい株式投資は適さないとの意見もあります。しかし、想定外の場面に出くわすことが多く、様々なリスクと向き合っているドクターの皆様はリスク許容度が高いと思われるため、むしろ株式投資が向いているかもしれません。米ペンシルベニア大学ウォートン・スクールの著名経済学者であるジェレミー・シーゲル博士は、1802年からの2016年までの超長期にわたる米国の金融市場の平均収益率(インフレ調整後、年率)を検証した結果を公表しており、株式市場が最もリターンが高かったことを実証しています。入り口から株式投資を排除すべきではないでしょう。

・株式:+6.7%

・長期利付債:+3.5%

・短期割引債:+2.6%

・ゴールド:+0.5%

・ドル:-1.4%

これだけ超長期に渡る検証ですと、ある期間に大きく収益を稼ぎ、逆にある期間では全く振るわない結果でも平均を高くすることが考えられます。しかし驚くことに様々な期間に区切ってもそのリターンに大差はありませんでした。

米国株式市場平均収益率(インフレ調整後、年率)

・1802年-2016年:6.7%

・1802年-1870年:6.7%

・1871年-1925年:6.6%

・1926年-2016年:6.7%

・1946年-2016年(第2次大戦後):6.8%

(出所:Stocks, Bonds and Future Returns  Prof. Jeremy J. Siegel ~ The Wharton School CFA Forecast Dinner, February 9, 2017)

過去の実績が未来にそのまま当てはまるわけではありません。あくまで検証結果です。しかしどのような商品に投資をするかを判断する一つの材料になるのではないでしょうか。

ロ:高額所得者は検討に値する不動産投資

医療法人からの給与所得者、個人事業主双方にとって税金の適正化は重要なテーマです。現役時代は減価償却費による税負担軽減効果、セカンドライフでは賃料による安定収入源確保と、現役・セカンドライフ両方に資するのが不動産投資です。まさに万能の投資対象のように感じますが、非常にリスクが高いのも事実です。新築にするのか中古にするのか。区分所有にするのか一棟買いにするのか。利回り重視か所在地重視か。判断材料は多岐にわたります。

ただ不動産投資には大きなリスクもあります

不動産投資の代表的なリスクを列挙します。

  • 流動性リスク

不動産を保有した地域が未来永劫人気が継続するとは限りません。例えば鎌倉の物件は価格が高すぎて思うように売却できないケースもあります。減価償却による節税効果が終了した後は売却をすれば良いと思っていても、売るに売れないリスクがあります。

  • 空室リスク

サブリースによる空室対策はあるものの、オーナーにとって有利であるとは言えません。家賃保証の恩恵を受けるためにはそれなりのコストが掛かります。満室であっても賃料満額が受け取れるわけではなく、保証される賃料も減額される可能性があります。

  • 資金負担上昇リスク

資金負担はローン返済以外にもあります。大規模修繕やリフォーム資金、さらには金利が上昇すればローン返済自体も負担が増加します。

ここで挙げたように様々なリスクがあるものの、高額所得者、そして富裕層にとって不動産投資は一定のメリットがあるのも事実です。重要なのはどこに、どのような物件を所有するかでしょう。

まとめ

投資方針決定カンファレンスのおすすめ

ドクターの皆様には、持続可能な社会保障制度の確立、地域医療を支えていくという重要な役割があります。そのためには充分なセカンドライフ資金、後継者育成のための教育資金、そして就業不能時の資金を自助努力で形成していくことも必要です。どのような商品で資産形成・資産運用を実施していくかは、ご自身のリスク許容度を踏まえ、さまざまな選択肢のなかから選択することをお勧めします。また、運用方針を決める際には医療現場で実施されるカンファレンスのように、金融の専門家を交えた投資方針決定カンファレンスを実施されてはいかがでしょうか。

最後までお読みいただきましてありがとうございました。

疑問点、ご質問等ございましたらお気軽にお問い合わせください。

※ディスクレーマー※

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【この記事の執筆者】

資産形成を日本の文化にすべく活動しているファイナンシャルプランナー。銀行、証券(投信投資顧問、ヘッジファンドのファンドマネージャー)、保険の金融3業態すべてに在籍した経験を持ち、資産形成についてのそれぞれのメリット・デメリットを把握している。